国宝・石清水八幡宮が鎮座する男山の西麓に位置する、京阪本線の相対式2面2線の地上駅。
江戸時代から続く大遊郭として栄え、当時の妓楼建築群が遊郭衰退の現在も残っており、その秘境的空間は訪れる人を惹きつけて離さない魔性的魅力を放っている。
また、駅前も京阪本線のそれとは思えない秘境空間が形成されており、映画「鬼龍院花子の生涯」のロケ地や秀吉がお茶を出してもらえなかった西遊寺、そして遊郭衰退後に開発されたニュータウンからの大眺望等、見どころ満載の駅となっている。
外観・駅周辺
伊勢神宮と並ぶ二大宗廟であり、日本三大厄神の一つでもある国宝・石清水八幡宮が鎮座する男山の西麓に位置する橋本駅。
駅東口から10歩もない超至近距離に位置する浄土宗のお寺・西遊寺。
かつて明智光秀と「山崎の戦い(天王山の戦い)」を繰り広げた羽柴秀吉が、当寺に立ち寄って茶を所望したところ、お湯ばかりが出されたので、別名・湯澤山茶久蓮寺(湯たくさん茶くれん寺)とも言われている。
そして、その西遊寺の向かいには、「橋本渡舟場三丁」と記された石碑が建てられている。
実は男山の西麓であり、かつ淀川の左岸にも位置するこの地から、1962年(昭和37年)まで対岸の山崎との間に渡し船が運行されていた。
駅入口にはこんな掲示が掲げられており、、、、
ホーム中央付近にある地下道へ誘導される。実はこの地下道の場所には、かつて踏切が存在していた。
京阪線の編成両数を増やす際に、その踏切が障害となるためドアカットが検討されたが、当時の社長・村岡四郎の反対により、踏切廃止と共に設置された地下道らしい。
その地下道を通って駅西口方面に出ると、普通の住宅地の合間に突如年季のはいった石碑が登場する。
「左・いせ京伏見・八幡」と記されたその石碑を左に折れた細い路地は、実は旧・京街道に当たる。
そして、上の写真の場所から後ろを振り替えって、駅と反対の西方向を望むと、これまでとは打って変わったレトロな情景が飛び込んでいる。
そして、そこからさらに西に進んで突き当りを左に曲がった旧・京街道には、京阪本線の駅前とは思えない秘境空間が飛び込んでくる。
秘境的雰囲気ながらも建物に施された意匠性の高さは、まさに妓楼建築のそれであり、実はこの地はかつて日本屈指の遊郭街だったのだ。
その遊郭街の名残を残す、マニアには有名らしい多津美旅館の看板。かつての妓楼から転業した旅館らしく「商談」という言い回しに時代を感じる。
この橋本遊郭の歴史は江戸時代にまで遡り、歴史の教科書でおなじみのあの井原西鶴の代表作「好色一代男」の舞台ともなった場所らしい。
その旧・京街道の南端にある「橋本湯」。
映画やCMのロケ地として使用されたこともある、レトロ感満載の老舗銭湯であったが、残念ながらつい先日廃業してしまったらしい。
さて、先ほど左に折れた地点まで戻り、今度はまっすぐ川方面に向かったところの架かる橋本渡しの道票。
映画「鬼龍院花子の生涯」のロケ地として、故・夏目雅子も渡ったと言われている橋だ。
その橋を渡った先にある堤防上から、旧遊郭街と橋本駅方面を望む。
江戸時代から遊郭街として栄えていたこの地だが、実は幕末に起こった鳥羽・伏見の戦いで大半が焼失してしまったらしい。
上の写真の場所から南東方向を望む。
その後、明治初期に淀川対岸に建設された大阪・京都間の官設鉄道(東海道本線)のダブルパンチによって、当地の旅客数が激減するという憂き目にあった。
上の写真の場所から北西方向には、かつて渡し船が向かっていた淀川対岸の「天下分け目の天王山」ふもとにある山崎の街が見える。
スーパーもコンビニも無く、京阪屈指のニュータウンエリアである樟葉駅の隣の駅とは思えないレトロ感が魅力の橋本駅前。
鳥羽伏見の戦いと東海道本線敷設のダブルパンチの影響で一時消滅した橋本遊郭であったが、地域復興のために再度復活を選択したらしい。
大阪方面行きホーム南端から、旧遊郭街入り口付近を望むと、駅の真ん前に当時の面影を残す妓楼建築が堂々と残っている。
そして、その向かいにある現在は廃墟となった建物は、何と実は遊郭時代の歌舞練場だったらしい。
旧遊郭跡は日本中に数あれど、当時の姿がここまで残っているのは極めて珍しく、なぜか引き寄せられてしまうその魔性的魅力は、もはや文化遺産の域に達しているといっても過言ではない。
その橋本遊郭は戦後まもなく施行された売春防止法によって衰退した。
おかげで税収の多くを失ったと言われる八幡の街は、駅東側の男山の急斜面を宅地として開発。この眺望美しいニュータウンは「希望ヶ丘」と名づけられた。
改札口・コンコース
改札口はホームごとに分かれており、「湯澤山茶久蓮寺」こと西遊寺前にある東口は、大阪・淀屋橋方面行きホームへの改札となっている。
改札機が1つだけの超コンパクトな改札口。
当駅の利用客数は1日約6000人。遊郭全盛期の終電間際は、遊郭帰りのサラリーマンで大混雑となっていたらしい。
遊郭街の入り口にあたる駅西口は、京都・出町柳方面行きホームへの入り口となっている。
この西口の真ん前にある、大正時代に建てられたという洋食屋「やをりき」。
これまた惹きつけられずにはいられない、レトロ好きには萌え萌え必死の図柄である。
時刻表
京阪本線:淀屋橋・中之島線方面
当駅は、実質的な各駅停車だけが止まる駅なので、中之島行きの各駅停車と、寝屋川市から一つ大阪寄りの萱島まで各駅に止まる淀屋橋行き準急が10分間隔で交互に運行される。
準急・各駅停車は、枚方市で後続の特急の待ち合わせを行う。
乗り場
ホームは相対式2面2線の構造。改札口は各ホームで独立しており、改札内では互いを行き来することは出来ない。
京阪本線橋本駅は、全国に3つある橋本駅の中で最も知名度の低い駅だが、その秘境的価値は最も高い。
奥に見える工事中の跨線橋付近はすでに大阪府枚方市域に入っており、現在大規模区画整理が進められている。
上の写真の場所から少しホーム中寄りに引いてみる。左手に廃墟となったかつての歌舞練場が堂々と君臨している。
再開発によって、この秘境空間にも何らかの変化が訪れるのだろうか。
今度は上の写真の場所から後ろを振り返って駅東口方向を望む。駅前に昭和の香りのする商店があるが、もはや営業はしていない。
当駅は京阪本線開通と同時の1910年(明治43年)に開業。電車の開通が、復活の兆しを見せていた橋本遊郭に栄華をもたらすこととなった。
大阪方面行きホームから京都方面行きホームを望む。
駅の真後ろにある建物の超レトロ感は、京都と大阪を結ぶ淀川左岸の大動脈である京阪本線の駅前とは思えない秘境的魅力を醸し出している。
その大阪方面行きホームに7000系の普通中之島行きがやってきた。
2016年(平成28年)3月のダイヤ改正で、日中の普通は最東端が枚方市止まりとなるため、まもなく見納めとなる。
停車駅が増えてもまだまだ現役で活躍する2扉特急8000系は、カーブをしならせながら通過していく。
今度は、1000系普通出町柳行きと、2400系準急淀屋橋行きの離合。出町柳行きは丹波橋で、淀屋橋行きは枚方市で後続の特急の待ち合わせを行う。
今度の普通中之島行きは2600系・30番台で到着。1981年(昭和56年)に登場した現役35年のベテラン戦士だ。
反対側ホームにやってきた2200系の普通出町柳行きは、2600系よりもさらにベテランの何と50年戦士だ。
2016年(平成28年)3月のダイヤ改正によって、日中の枚方市以東の各駅停車は準急に一本化されるため、普通・出町柳行きは見納めとなる。
樟葉駅に向けて、1000系準急淀屋橋行きが出発した。この橋本駅前の穴場的秘境空間は、いつまでも残ってほしい風景である。
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